ミステリーとか警察ものとか…読んだら書評書いてます

ミステリー、警察もの、組織もの、たまに他の本も、実際に読んでから書評を書いています。川崎市在住 連絡先 oyamaiitenki@gmail.com

辞令 高杉良 文春文庫

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古くから企業ものを書いていらっしゃる高杉良さんの1988年の作品です。「高杉良の作品の魅力はよく練られた会話劇の妙にある。」と後解説にありました。確かに、30年前の日本の会社の中で交わされた会話だと思って読めば斬新でリアリティがあったのでしょうが、30年後の今、読むと少し昭和の香りが漂う芝居がかった会話に感じられます。今どき「…したまえ」はないかな?

もしかしてウチの会社のこと?

しかし、同族経営の会社を私物化する創業者一族(特に夫人のごり押し発言 笑)、人間の繋がりで決まってしまう人事、権力者にすりよる茶坊主上司…今でも一部がニュースとなって表面に出てきますが、実際にはもっとあるに違いない会社組織の中のドロドロが、これでもかと描かれ、一々頷かざるを得ませんでした。(自分の会社のようだと思って読んでいる人も沢山いるに違いありません。)
広告業界の過剰な接待ぶりと情報収集能力、今でこそ労働問題で派手なことは自粛されていますが、かってはまったくその通りでした。

懐かしい・・「会社あるある」

将来を嘱望されている社員が、業績以外の理由、創業者一族のわがままや優秀な部下を恐れる上司の権謀術数に踊らされ、意に沿わない異動をさせられる場面では笑ってしまいました。 事実を少だけ変えるだけで、あるいは事実を一部隠すだけで 他人を蹴落とし自分は助かろうとする。まあ、どんな規模の会社であろうと サラリーマンなら誰もが思う「会社あるある」ですね。
しかし、友人の危機を救うために虚偽のアリバイ作りに奔走する主人公の姿には、いただけないものを感じました。虚偽の証言をしてしまったら、主人公も、主人公を堕としいれようとした上司と同レベルに落ちてしまいますよね。いくら思いを寄せる女性のためであっても、最近のコンプライアンス重視の世間では許されることではありません。この辺がやっぱり1988年の作らしいといえばらしいでしょうか。

まあ、ちょっと古い作品ですが、

「会社あるある」を読んで、一緒になって怒るにはいい本ではないでしょうか?