ミステリーとか警察ものとか…読んだら書評書いてます

ミステリー、警察もの、組織もの、たまに他の本も、実際に読んでから書評を書いています。川崎市在住 連絡先 oyamaiitenki@gmail.com

さよなら妖精 米澤穂信 創元推理文庫

f:id:oyamaiitenki:20171104180835j:plain

最初はミステリーとは思わなかった

帯に「史上初!ミステリベストランキング 3年連続第1位」「全てが代表作」とあったので読んでみました。謎だらけの殺人事件が起きて、名探偵が推理し解決するという流れを期待しながら読んでいるうちに、自分が誤解しているようだと思い始めました。この本は、ユーゴスラビアから来た妖精のような少女に魅かれていく高校生のラブストーリーだった・・と思い込んで最後まで読み終わり、なるほど、殺人事件は起きないけど、名探偵も出てこないけど、これは切ない青春のミステリーだったのです。

人口10万人の中心部を川が流れている町「藤柴市」が舞台です。藤柴市の高校に通う高校生カップルの前に一人の異邦人が現れます。異邦人の名前は「マーヤ」、日本には馴染みの薄い国「ユーゴスラビア」から来た魅力ある少女でした。滞在先にとあてにしていた日本人家族がいなくなり、途方にくれていたマーヤが気になったカップルは友人2人を巻き込んでマーヤに宿を世話し、彼女の日本を知るための2か月間の滞在に付き合うことになったのです。そこからは切ないラブストーリーお決まりの展開(読んでいる途中は、ラブストーリーだと思い込んでました)で、カップルの彼、守屋くんは徐々にマーヤに魅かれていき、日本人の彼女とは少しずつ距離が出来始める。マーヤが滞在した2カ月間の描写は、これはこれで面白く、日本のことをほとんど知らない外国人が日本の文化の妙なところに興味を抱き高校生たちに質問し、高校生たちはなんとか外国人に理解してもらえるよう答えていく。マーヤの使う日本語と高校生たちの会話も面白く読むことができました。

そしていつか必ずやってくる別れの日、マーヤは母国での連絡先を告げずに日本を去ってしまうのです。マーヤはどこへ帰ったのか?この2か月間の出来事、マーヤとの会話の中に、この話の謎を解く鍵がいくつも隠されていたのですが、そうとは気づかず読んでいた自分の迂闊さ加減に呆れてしまったのです。マーヤ自身も彼に魅かれていたようですが、なぜ連絡先も告げなかったのか、その理由も最後に解き明かすべき謎の一つだったような気がします。

切ない謎解き・・でも若いっていいな~と思わせてくれる一冊です。他民族国家の悲劇が裏テーマ。

この話の主人公はカップルの彼、守屋くんとマーヤで間違いありませんが、守屋くんの彼女、太刀洗さんの存在、言葉の裏の本心もまた、この本の読者が解かなければいけない謎だったのでしょう。

登場人物たちも気が付かなかった手がかりと、論理的な謎解き・・この作品は、ミステリーと呼ぶにふさわしいと一冊でした。