ミステリーとか警察ものとか…読んだら書評書いてます

ミステリー、警察もの、組織もの、たまに他の本も、実際に読んでから書評を書いています。川崎市在住 連絡先 oyamaiitenki@gmail.com

蜜蜂と遠雷 恩田睦 kindle版

最初は書店で「上」「下」が左右に並んだ状態で目に入り、表紙が好きな色あいだったので手に取ってすぐ台に戻しました。

2回目に見て、やっぱり表紙が気になり手に取って、前回より少しだけ長い時間観ていました。

大変お恥ずかしいことながら、この「蜜蜂と遠雷」が2017年の直木賞と本屋大賞をダブル受賞した傑作であることをまったく知らずに読み始めてしまいました。こともあろうに、つまらなかったときのために、まず「上」だけをDLし、面白かったら「下」もDLしようなどと不遜なことを考えていたことを白状しておきます。

ということなので、中身をまったく知らずに読み始めました。読みすすんで行くにつれ、作品の世界にどんどん引き込まれていったことを覚えています。冒頭のモノローグは栄伝亜夜さんでしょうか。このモノローグから既にこの作品にハマってしまっていたのかもしれません。自分自身小さい頃にピアノのレッスンを受けていて、世間の音が音符になって聞こえてくる経験をもっているので、なんとなく冒頭の「テーマ」と「前奏曲」の前半のパリの街角のシーンは理解できるような気になってしまいました。(読んだ後になって、自分レベルの能力で感じられる感覚ではないということを理解し、打ちのめされてしまいましたが…)

風間塵が登場する「前奏曲」から国際的なピアノコンクールの内側がどんどん展開していきます。三枝子さんのような「不良」の審査員がいることに驚き、また一段と作品に引き込まれます。お恥ずかしい話ながら、ここまで読んでやっと、いま読んでいる作品がミステリーではなく、クラシック音楽をテーマにした作品であることを理解しました。この段階では「上」「下」で一つのコンクールを描いた作品で、作品中がピアノの演奏に関する表現だらけだとは想像していませんでした。もし、コンクールだけを描いた作品であることを読む前に知っていたら、DLしなかったかもしれません。

風間塵くんに続いて栄伝亜夜さんが登場する「トレモロ」です。亜夜の「雨の馬が走っている」という表現は少し理解できるような気がしました。しかし、火災報知器のサイレンに合わせて即興で演奏した曲を是非聞いてみたい気がします。今年の秋には映画が公開されるようですが、こういう楽譜にない曲をどう聞かせてくれるのでしょうか?亜夜が「雨の馬」を感じた雨の音も同様にどう映像化してくれるのか、意地悪な気持ち半分で興味があります。

直木賞、本屋大賞を受賞し、多くの方が書評や感想を発表されているでしょうから、内容に関してはこのくらいにします。

この作品を読み終えて自分に残ったこと…それは作品に出てくる楽曲を全部聞いてみたいということ。そして、才能ある(と言われている)ピアニストのリサイタルに足を運んで、恩田さんが描いた「音楽の溢れる世界」を少しでも共感じてみたいと思ったこと。そして50年ぶりに鍵盤に触りたくなったことです。(多分どれも少ししかやらないような気がしますが…笑)こんな気持ちにさせてくれるのですから、この作品は自分にとってものすごい力を持っていたということです。そして、とても面白かったです。

数年後の、亜夜が見てみたい。マサルとどうなったのか…風間塵くんとのコラボ演奏会は聴衆をどんなに驚かせたのか… 終わってからも読み手を惹きつけてやまない作品は超おススメです。(って、他の書評で散々絶賛されているでしょうから、今さらですけど…)恩田さん、ありがとうございました。